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酒と薬の漬け物の

またやり直し。

絡繰少女と风の唄 1話

「先生!いるのはわかってるんですよ!!」
インターフォンの連打と共に叫ぶ声が、〆切を知らせる死神となって現れる。
胃がキリキリしてきた。待ってくれ。うるさい。今書いてるから。
キーボードを叩く音が、私の頭の中で構成した文章を出力していく。
『ユキさん……』
サクラが不安そうにこちらを見ている。桜の花びらが舞った縁でそう名付けた、現時点でかなり万能なガイノイドだ。
しかし何もかもが集中力を乱していく。ええい、儘よ。
「サクラ、ごめん、客人の相手してきて。出来る限り構ってきて」
顔がぱぁっと明るくなって(いつもながらこの指示を受けた時の表情が可愛いのである)返事をし、部屋を出て玄関へと赴いた。
原稿は無惨にも、分量で見て軽く1時間はかかるだろうと予測する。そのうち部屋の中に響く音のうち、インターフォンと怒号が消える。サクラよ、頼んだぞ。

死にもの狂いという言葉の通りに原稿を上げ、プリントアウトをして、這々の体でリビングへと足を伸ばす。
「……何やってんすか」
担当の遠藤さんがサクラを抱いてソファで寝ていた。序でに、サクラもスリープモードに入っている。
テーブルにはレモンティーと菓子が乗っている。私がやった訳ではないから、サクラがこなしたことになる。至れり尽くせりだ。
私が「サクラ」と呼ぶと、ぶぅん、と起動音がして、『はい!』と応えた。
「遠藤さん」
と呼んでも、こちらはスリープモードを解除しない。けれどサクラが起き上がると、「先生、原稿……!」
第一声がこれという。なんと残酷な仕様であろうか。
「お待たせしました、こちらです。デジタルデータは送信しておきましたので」
「ありがとうございます、先生。日が暮れる前に終わらせるなんて……これからもこの調子でお願いしますね!」
非情なことを言いながら原稿の束をざっと読み返して、大型の封筒に入れる。
「それにしても……」
遠藤さんはサクラの肩を組み、
「これ可愛いですね、結構気に入りましたよ。お値段が大変なのでうちには置けないですけど」
『?』
満更でもなさそうな顔でこちらを見る、サクラ。
「“これ”じゃなくて、『サクラ』と呼んであげると可愛く反応しますよ」
「サクラ?」
『はい!』
「よ〜しよしよし……」
『にゃ〜♪』
「猫じゃないんだから……」
モードが沢山あるサクラは、恐らく接待モードにでも入ってるんじゃないかと、それこそネコの如く甘えている。
再びサクラを抱いて、遠藤さんは言う。
「それにしても先生、この子、薄いキャミソールとパンツだけだなんて、ちょっと悪趣味じゃありません?」
ああ、そうか。え〜っと……
「元から着てたものなんです。原稿も上がったことだし子供服でも買ってこようか。ねぇ、サクラ?」
『はい!お供致しますか?』
「うん、何か羽織るものを……っと」
「それじゃあ先生、原稿、確かに受け取りましたので、そろそろ失礼します」
「はい、ご苦労様です」
『お見送り致します』
「サクラちゃん可愛いですねホント」
「だってさ、サクラ」
『ありがとうございます!えへへ……』

見送りが済んでぱたぱたとやってきたサクラに、上からパーカーを羽織らせると、サイズが大きいのか腿辺りまでのワンピースみたくなった。そして袖から手が出てこない。
「まあこれはこれで……」
可愛いわけである。一度ぎゅっと抱きしめると、ほっとした表情を浮かべる。
「んじゃ出かけるか!」
『はい!』